「引き算」が生む豊かさ ― なぜ、私たちは味噌スープに還るのか?
こんにちは!日本で主婦をしているYukiです。
今日の日本の空は、少し雲がかかっていて、肌に触れる空気がひんやりとしています。そちらの天気はどうですか?
季節の変わり目って、なんだか心も体も少し不安定になりがちですよね。
さて、今日は少し深い話をしながら、とっておきのレシピを紹介したいと思います。
皆さんは、日々の生活の中で「もっと何かを足さなきゃ」と焦ることはありませんか?
もっと手の込んだ料理を作らなきゃ、もっと栄養価の高いスーパーフードを取り入れなきゃ、もっと家族を楽しませなきゃ……。
海外の友人たちと話していると、みんなスーパーウーマンのように頑張っていて、いつも感心させられます。でも同時に、「ああ、みんな少し疲れているな」と感じることもあります。
実は、日本には古くから**「引き算の美学(Aesthetic of subtraction)」**という考え方があります。
これは、何かを付け足して豪華に見せるのではなく、余計なものを削ぎ落とすことで、素材そのものが持つ本来の美しさや力を際立たせるという思想です。
例えば、日本の「生け花」を想像してみてください。西洋のフラワーアレンジメントが空間を埋め尽くすように豪華に花を盛るのに対し、日本の生け花は「空間(Space)」や「余白(Empty space)」を大切にします。一本の花、一本の枝の曲線を活かすために、あえて他の花を引くのです。
この考え方は、私たちの食卓、そして人生観にも深く根付いています。
今日ご紹介したい**「Miso Mushroom Noodle Soup(味噌きのこヌードル)」**は、まさにその「引き算の美学」を体現した一杯であり、忙しい毎日を送る私たち主婦にとっての「お守り」のような料理なんです。
なぜ私が今、このシンプルなスープを皆さんに強くおすすめしたいのか。
それは、私自身の「失敗」の実体験に基づいています。
数年前の私は、まさに「足し算」の呪縛にかかっていました。
仕事と育児の両立に追われながら、「完璧な母、完璧な妻」を目指して、食卓には何品ものおかずを並べようと必死でした。冷蔵庫にあるたくさんの食材を使い、複雑な味付けをし、時間をかけて料理を作ることが「愛情」だと信じ込んでいたんです。
でも、結果はどうだったと思いますか?
私はキッチンで疲れ果て、食卓に着く頃には笑顔も消えていました。家族のために作ったはずの料理が、いつの間にか私自身を追い詰める「タスク」になっていたんです。
そんなある寒い雨の日、疲れすぎて買い物に行く気力もなく、冷蔵庫には使いかけのキノコと味噌、そして少しの麺しかありませんでした。
「ごめんね、今日はこれしかないの」
そう言い訳をしながら、私は鍋にお湯を沸かし、キノコを放り込み、味噌を溶いただけの簡単なヌードルスープを作りました。
所要時間はたったの10分ほど。飾り気もない、茶色いスープです。
けれど、そのスープを一口飲んだ瞬間、私の体の中を温かい電流が駆け抜けました。
「……おいしい。」
心からの言葉が漏れました。
複雑なスパイスも、濃厚なクリームも入っていない。ただ、キノコの深い出汁(Dashi)と、味噌の優しい香りが広がるだけ。
でも、その「何もない」はずのスープには、驚くほど深い味わいと、荒立った心を鎮める不思議な力があったのです。
夫も子供たちも、「これ、すごく美味しいね!体が温まるよ」と、私が時間をかけて作った豪華なディナーの時よりも嬉しそうに食べてくれました。
その時、私はハッと気づかされたのです。
「ああ、私は何を頑張りすぎていたんだろう。本当に必要なものは、すでにここにあったんだ」と。
これが、今日皆さんにシェアしたい**「Umami(うま味)」**の正体であり、日本の家庭料理の真髄です。
「Umami」という言葉、海外でもかなり定着してきましたよね。
でも、多くの人がこれを単なる「Savory flavor(風味)」の一つだと思っているかもしれません。
日本人の感覚で言うと、Umamiはもっと精神的なものに近い気がします。
舌で感じる味というよりは、喉の奥からお腹の底へ、そして心へと染み渡る「安心感(Comfort)」そのものなんです。
特に今回の主役である「Miso(味噌)」と「Mushroom(キノコ)」の組み合わせは、最強のパートナーです。
日本には「八百万の神(Yaoyorozu no Kami)」という、自然界のあらゆるものに神様が宿るという考え方があります。
大げさに聞こえるかもしれませんが、キノコという食材は、森の中で静かに倒木や落ち葉を分解し、土に還し、新しい命を育む循環の象徴です。彼らは静かで、地味で、決して派手な主張はしません。でも、その内側には森のエネルギー(Umami)が凝縮されています。
そして味噌もまた、大豆と麹菌という目に見えない微生物たちが、時間をかけて醸し出した「発酵(Fermentation)」の芸術品です。
つまり、このスープを作るということは、単に料理をするという作業ではなく、**「自然の力を借りて、自分自身をチューニングする(整える)」**という儀式のようなものなのです。
皆さんは普段、自分のために料理をしていますか?
家族のため、子供の健康のため、夫の好みに合わせるため……誰かのためにキッチンに立つことは素晴らしいことですが、それだけだと心のエネルギーが枯渇してしまいます。
この「味噌きのこヌードル」は、何よりもまず**「あなた自身」**のために作ってほしいのです。
準備に時間はかかりません。
忙しい平日の夜、デリバリーを頼むよりも早く作れます。
あるいは、週末のランチ、一人の時間に。
鍋から立ち上る湯気の中に顔をうずめて、味噌の香りを深く吸い込む。それだけで、瞑想(Meditation)と同じくらいのリラックス効果があると、私は真剣に思っています(笑)。
「丁寧な暮らし(Teinei na Kurashi)」という言葉が日本で流行っています。
これは「時間をかけて完璧な生活をする」という意味ではありません。
たとえ忙しくても、たとえ10分しか時間がなくても、その一瞬一瞬を大切に味わうこと。
コンビニのお弁当で済ませる日があってもいい。でも、もし手元にキノコと味噌があるなら、自分でお湯を沸かしてスープを作る。その「ひと手間」が、自分を大切にすることに繋がるのです。
海外に住んでいると、日本の食材が手に入りにくいこともあるかもしれません。
でも大丈夫。このレシピの素晴らしいところは、その「懐の深さ」にあります。
日本の特定のキノコがなくても、現地のマッシュルームで十分美味しい。
高級な出汁がなくても、素材から旨味が出る。
うどんや蕎麦がなくても、パスタやライスヌードルでも魔法がかかる。
「こうでなければならない」というルールから自由になることも、このスープが教えてくれる知恵の一つです。
これから続く記事では、具体的なレシピと、私が試行錯誤して見つけた「旨味を爆発させる小さなコツ」、そして現地の食材でアレンジするためのアイデア(承・転)をご紹介していきます。
でもその前に、まずはこの「マインドセット」を持っていてください。
「シンプルであることは、不足していることではない。むしろ、素材の声を聞くための贅沢な空間である。」
このブログを読んでいるあなたが、もし今、「忙しい」「疲れた」「日本の味が恋しい」と感じているなら、このスープはあなたのためのものです。
キッチンは戦場ではありません。あなたの心を癒やすサンクチュアリ(聖域)です。
さあ、肩の力を抜いて。
世界一簡単で、世界一深い、日本の魔法のスープを作る準備はできましたか?
鍋と水を用意して、次のセクションへ進みましょう。
そこには、驚くほどシンプルな「幸せのレシピ」が待っています。
旨味(Umami)の科学と実践 ― シンプルな食材が化ける「10分間の魔法」
さあ、エプロンをつける準備はできましたか?
ここからは、いよいよ実践編です。
「料理は化学(Science)」だなんて言うと、ちょっと難しく聞こえるかもしれません。でも、日本の家庭料理、特にこの「味噌きのこヌードル」に関しては、本当にシンプルな化学反応の連続なんです。
これからご紹介するのは、高級なレストランのテクニックではありません。日本の忙しいお母さんたちが、限られた時間と予算の中で家族を満足させるために編み出した、生活の知恵そのものです。
手元にメモの用意はいいですか?
……と言いたいところですが、メモなんて必要ありません。一度読めば体に染み込むくらい、シンプルで理にかなった方法ですから。
1. 「旨味の方程式」を知る ― なぜキノコと味噌なのか?
まず、鍋に火をつける前に、少しだけ「魔法の種明かし」をさせてください。
なぜ、肉も魚も使わないのに、このスープはあんなに深い味がするのでしょうか?
それは、日本人が発見した**「旨味の相乗効果(Synergistic effect of Umami)」**を使っているからです。
日本の料理界には、こんな方程式があります。
「グルタミン酸(Glutamate)× グアニル酸(Guanylate)= 旨味爆発」
- 味噌(Miso): 昆布やトマトと同じ「グルタミン酸」の宝庫。
- キノコ(Mushroom): 特に加熱や乾燥させることで増える「グアニル酸」の塊。
この2つが出会うと、不思議なことに、舌が感じる旨味の強さは「1+1=2」ではなく、「1+1=7〜8」にも跳ね上がると言われています。
つまり、私たちは一生懸命たくさんの材料を足し算する必要なんてなかったんです。正しいペアリングさえ知っていれば、最小限の材料で、最大限の満足感を引き出せる。これぞ、日本の主婦が「時短(Jitan)」を叶えながら「美味しい」を諦めない最大の秘訣です。
2. 日本の主婦の裏技「キノコは○○しておく」
ここで、私のとっておきの裏技(Life hack)をシェアしますね。
もし余裕があれば、キノコは**「冷凍(Freeze)」**しておいてください。
「え?新鮮なほうが美味しいんじゃないの?」
そう思いますよね。でも、キノコに関しては違うんです。
日本には「冷凍キノコミックス」を常備している主婦がたくさんいます。これは単に保存のためだけじゃありません。
キノコは一度冷凍することで細胞壁が壊れます。すると、解凍・加熱した時に、先ほどお話しした旨味成分や栄養が、生の時よりも外に溶け出しやすくなるんです。
スーパーで特売の時にいろんな種類のキノコ(椎茸、舞茸、しめじ、えのき……海外ならマッシュルーム、ポートベロー、オイスターマッシュルームなど何でも!)を買ってきて、手で割いてジップロックに入れて冷凍庫へ放り込んでおく。
これだけで、あなたの冷凍庫には「旨味爆弾」が常備されていることになります。
疲れて帰ってきた夜、包丁すら握りたくない時、この「冷凍キノコ」があれば、そのまま鍋に入れるだけ。包丁いらずで、しかも生より美味しいスープができる。
これこそ、日本の「ズボラ(Zubora)」という文化の良い側面です。「手抜き」ではなく「効率化」であり、結果として美味しくなるなら、それが正解なんです。
3. 実践:香りをデザインする10分間
では、実際に作っていきましょう。
工程は驚くほどシンプルですが、一つ一つの動作に意味があります。
Step 1: 香りのベースを作る
まず鍋に少しのごま油(Sesame oil)を熱します。もしあれば、刻んだニンニクや生姜を少し入れてください。
和食=あっさり、と思われがちですが、実は「香り(Kaori)」のレイヤーをとても大切にします。ごま油の香ばしさは、食欲をそそるスイッチです。
Step 2: キノコには「触らない」
ここがポイント! キノコ(生でも冷凍でも)を鍋に入れたら、すぐにかき混ぜないでください。
じっと我慢です。
強めの中火で、キノコの表面に少し焼き色がつくまで放置します。
日本には「焼き目(Yakime)」という言葉があります。焼き目はただの焦げではなく、香ばしさという旨味です。キノコを炒めるのではなく「焼く」イメージで。
ジューっという音が変わり、キノコの水分が飛んで香ばしい香りが立ってきたら、そこで初めてさっと混ぜます。この一瞬の手間が、スープの深みを決定づけます。
Step 3: 水が「出汁(Dashi)」に変わる瞬間
水を注ぎます。特別なチキンストックも、コンソメキューブもいりません。
なぜなら、あなたの鍋の中にはすでに、香ばしく焼かれたキノコという最強の出汁パックが入っているからです。
水が沸騰すると、琥珀色のスープが出来上がっているはずです。味見をしてみてください。まだ塩気はないけれど、キノコの滋味深い味がするはずです。
Step 4: ヌードルというキャンバス
ここで麺を投入します。
うどん(Udon)、そば(Soba)、ラーメン(Ramen)、あるいはライスヌードルやパスタでも構いません。
私のお気に入りは「うどん」です。太い麺が優しいスープをしっかり受け止めてくれるから。
別茹でが必要な麺なら別の鍋で、そのまま煮込める麺ならスープの鍋へ。
日本には「煮込みうどん(Nikomi Udon)」という料理があるように、麺がスープの旨味を吸い込むのもまたご馳走です。
4. 最大のルール:味噌は「煮立たせない」
最後に、これだけは絶対に守ってほしい「鉄の掟」があります。
「火を止めてから、味噌を溶く」
(Dissolve miso AFTER turning off the heat.)
これは日本の家庭で、祖母から母へ、母から娘へと受け継がれてきた絶対のルールです。
味噌は「生きて」います。発酵食品である味噌には、豊かな風味(Aroma)と、体に良い酵素や菌が含まれています。
しかし、これらは熱にとても弱いのです。
グツグツと沸騰した鍋に味噌を入れて煮込んでしまうと、せっかくの繊細な香りが飛び、風味が死んでしまいます。
だから、麺が茹で上がり、具材に火が通ったら、一度コンロの火を完全に止めてください。
一呼吸置いて、鍋の中が落ち着いてから、味噌を溶き入れます。
お玉の上で菜箸を使って優しく味噌を溶かす仕草。この瞬間、フワッと立ち上る大豆の甘い香り。これこそが、私たち日本人が「ああ、家に帰ってきた」と感じる瞬間(A moment of relief)です。
味噌を溶いたら、もう沸騰させないでください。
食べる直前に、温め直す程度ならOKですが、基本は「溶いたらすぐ食べる」。これが味噌スープを一番美味しく味わうタイミングです。
いかがでしたか?
特別な技術は何もありませんでしたよね。
でも、「キノコを焼いて旨味を引き出す」「味噌を煮立たせずに香りを守る」。この2つのポイントを押さえるだけで、あなたのスープは劇的に変わります。
このプロセス自体が、実は人生のメタファー(暗喩)のようにも感じませんか?
焦ってかき混ぜすぎると(=生き急ぐと)、良い焼き目(=深み)がつかない。
熱しすぎると(=頑張りすぎると)、大切な香り(=自分らしさ)が飛んでしまう。
「適度な距離感で見守る時間」と「熱を冷ます余裕」が、料理にも人生にも必要なんです。
さて、これでベースとなる「完璧なスープ」は完成しました。
これだけでも十分に美味しいのですが、次のセクションでは、ここからさらに自由に遊ぶためのアイデアをご紹介します。
「毎日食べても飽きない」魔法のアレンジ術と、栄養バランスを完璧にするためのプロテイン・ハック。
あなたの冷蔵庫にある”アレ”が、まさか味噌スープに合うなんて……!という驚きの組み合わせをお伝えしますね。
常識を捨てる ― ヌードルという自由なキャンバスと、意外なプロテインハック
ここまで読んでくださったあなたは、もう基本の「味噌きのこヌードル」のマスターです。
でも、ここで皆さんに正直に告白しなければならないことがあります。
もしかすると皆さんは、「日本食を作るなら、日本の食材を完璧に揃えなければならない」「正しい手順を守らなければ、それは日本食ではない」と、少し身構えていませんか?
もしそう思っているなら、今すぐその「真面目な教科書」を窓から投げ捨ててしまいましょう(笑)。
ここからは**「転(Twist)」**の時間です。
実は、私たち現代の日本の主婦は、皆さんが思っているよりもずっと自由で、貪欲で、いい意味で「適当(Tekito)」なんです。
1. 「真正(Authentic)」の呪いから自由になる
海外の方と話していると、「これはAuthentic(本物)の日本食ですか?」と聞かれることがよくあります。
その気持ち、すごくよく分かります。異文化に敬意を払いたいと思ってくれているんですよね。
でも、日本の家庭料理の現場には、厳格なルールなんてほとんど存在しません。
日本には**「和洋折衷(Wa-Yo-Secchu)」**という言葉があります。
これは「日本と西洋の様式をうまく調和させること」を意味します。明治時代以降、日本人は海外から入ってきた新しい文化を拒絶するのではなく、「どうすればご飯に合うか?」「どうすれば味噌汁に合うか?」と、自分たちの生活に取り込んで改造してきました。
カレーライス、とんかつ、ナポリタン……これらは全て、この「改造精神」から生まれた日本の国民食です。
だから、この味噌スープも同じです。
あなたの冷蔵庫にあるもの、あなたが住んでいる国の美味しいもの。それらを受け入れる「余白」が、味噌にはあるんです。
「足りないものを嘆くのではなく、今あるものをどう活かすか」
これは、変化の激しい現代を生き抜くための、しなやかな強さ(Resilience)にも繋がる哲学です。
2. 麺(Noodle)の壁を壊す
まず、麺の話をしましょう。
うどんや蕎麦が手に入らない? 全く問題ありません。
むしろ、現地のスーパーで手に入る麺で新しい発見を楽しみましょう。
- パスタ(Spaghetti/Linguine):「えっ、味噌スープにパスタ?」と顔をしかめましたか?騙されたと思って試してみてください。実は、日本のコンビニやカフェでは「味噌クリームパスタ」や「キノコと醤油のパスタ」は大人気メニューです。アルデンテに茹でたパスタは、味噌スープの中で意外なほど良い仕事をします。もし「ラーメン風」にしたいなら、パスタを茹でるお湯に**重曹(Baking Soda)**をスプーン1杯入れてみてください。化学反応で、パスタが中華麺のような食感と香りに変化します。これは海外在住の日本人がよくやる裏技(Life hack)です。
- ライスヌードル(Rice Noodles/Pho):グルテンフリーを意識している方にはこれがベスト。味噌の優しい風味と、お米の麺の相性は抜群です。少しベトナムのフォーのような、でも味は日本の田舎のような、不思議で優しい「アジアン・フュージョン」が生まれます。
- オートミール(Oats):もはや麺ですらありませんが(笑)、スープの中にオートミールを入れてリゾット風にするのも、忙しい朝の日本の定番です。「味噌粥(Miso Porridge)」のような感覚で、胃腸が疲れている時に最高です。
3. プロテイン・ハック:お肉を使わない満足感
基本のレシピはヴィーガン(Vegan)ですが、もしあなたが「もっとボリュームが欲しい」「タンパク質を摂りたい」と思うなら、ここでも自由な発想を取り入れましょう。
わざわざこのスープのために特別な肉を買ってくる必要はありません。
- 厚揚げ(Fried Tofu / Atsu-age):もしアジア系スーパーで見つけたら、絶対に買ってください!普通の豆腐も美味しいですが、厚揚げは「スポンジ」です。表面の揚げた部分がコク(Richness)を出し、中のスポンジ状の豆腐が味噌スープをこれでもかと吸い込みます。一口噛んだ瞬間にスープがジュワッと溢れ出す……これを日本語では「味しみ(Aji-shimi)」と言い、最高のご馳走とされます。
- 落とし卵(Poached Egg):日本人は卵が大好きです。スープが完成する直前、そっと卵を割り入れて、好みの固さになるまで数分待つ。それだけです。食べる時に、半熟の黄身(Yolk)を箸で割って、味噌スープに溶かしながら麺に絡めて食べる。……想像しただけでお腹が鳴りませんか? 黄身のクリーミーさが味噌の塩気を包み込み、一気に濃厚な味わいになります。
- 昨日の残り物(Leftovers):サンデーローストのチキンの残り、少しだけ余ったポークソテー。それらを細かく裂いてトッピングしてください。日本には**「もったいない(Mottainai)」**という精神があります。食材を無駄にせず、最後まで命をいただき切る。残り物のお肉から出る脂やスパイスが、味噌スープに新しい表情を与えてくれます。これは「リメイク料理」として、賢い主婦の腕の見せ所なんです。
4. 禁断のフレーバー:味噌×バターの罪な味
最後に、私が個人的に一番おすすめしたい、でも少しだけ罪悪感のある「悪魔的なアレンジ」をお教えします。
食べる直前に、スープにひとかけらの**「バター(Butter)」**を落としてみてください。
そして、黒胡椒(Black Pepper)をたっぷりと挽くのです。
「味噌とバター?」
そうです。これは日本の北海道(Hokkaido)発祥の有名なラーメンスタイル、「味噌バターラーメン」から着想を得たものです。
発酵食品である味噌と、乳製品であるバター。実はこの2つ、相性が悪いわけがないんです。どちらも芳醇なコクを持っています。
バターが熱いスープの上でゆっくりと溶け出し、金色のオイルが表面に広がる。
それを一口飲むと、素朴だった和食が、一気にパンチの効いたリッチな料理に変貌します。
「静寂」を楽しむのが基本のレシピなら、これは「情熱」を楽しむアレンジです。
疲れて帰ってきて、「今日は自分を甘やかしたい!」という日には、カロリーのことなんて忘れて、バターをひとかけら落としましょう。
その背徳感(Guilty pleasure)も含めて、料理の楽しさですから。
「型(Kata)」を知り、「型」を破る
日本には、武道や芸術の世界で**「守破離(Shu-Ha-Ri)」**という言葉が使われます。
- 守(Shu): 基本の型を忠実に守る。
- 破(Ha): その型を自分なりにアレンジして破る。
- 離(Ri): 最終的に型から離れ、独自の新しいスタイルを確立する。
料理もまったく同じです。
前回の「承」のパートで、皆さんは出汁と味噌の基本(守)を学びました。
だから今、皆さんは自由にアレンジする(破)資格があるんです。
「味噌汁にはこれを入れてはいけない」なんていう法律はありません。
トマトを入れてもいい、コーンを入れてもいい、チリソース(Sriracha)で辛くしてもいい。
大切なのは、それが「あなたにとって美味しいかどうか」です。
伝統をリスペクトすることは大切ですが、それに縛られて料理が苦痛になってしまっては本末転倒です。
日本のキッチンは、もっと自由で、もっとカオスで、もっと楽しい場所なんです。
失敗したっていいんです。「あ、これは合わなかったな」と笑って、また次の実験をすればいい。
その「遊び心(Playfulness)」こそが、毎日の単調な家事(Chore)を、クリエイティブな時間に変えてくれる鍵なのです。
さあ、あなたのキッチンにある「あなたらしい食材」は何ですか?
私のレシピ通りに作る必要はありません。
あなたの国、あなたの街、あなたの家の味を、この味噌スープに混ぜ込んでみてください。
きっと、私たちがまだ知らない、世界で一番美味しい「Miso Mushroom Noodle Soup」が生まれるはずです。
次はいよいよ最後の「結(Conclusion)」です。
この一杯のスープが、私たちの人生に何をもたらしてくれるのか。
お腹だけでなく、心を満たす最後のメッセージをお届けします。
一杯のスープが教えてくれること ―「味わう」という生き方
キッチンには今、味噌とキノコの香ばしい匂いが満ちていることでしょう。
目の前には、湯気を立てる温かいボウル。
これまで、私たちは「引き算の美学」を学び、「旨味の科学」を使い、「型を破る遊び心」でスープを完成させました。
旅の最後となるこのセクションでは、このスープを**「どう食べるか」、そして食べた後に「何が残るか」**についてお話しします。
ここには、私たち日本人が大切にしている、幸せに生きるための究極のヒントが隠されています。
1. 「いただきます」は、命とつながるスイッチ
さあ、スプーンや箸を持つ前に、日本人の真似をして、胸の前でそっと両手を合わせてみてください。
そして、言葉に出して(あるいは心の中で)言ってみましょう。
「Itadakimasu(いただきます)」
海外の映画やアニメで見たことがあるかもしれませんね。これは単なる “Bon appétit”(食事を楽しんで)や “Let’s eat”(さあ食べよう)とは少し意味が違います。
直訳すると “I humbly receive”(慎んで受け取ります)。
ここには2つの感謝が込められています。
- 命への感謝: キノコ、小麦、大豆……かつて生きていた自然の命を私の命に変えさせていただきます、という感謝。
- 働きへの感謝: この食材を育てた農家の人、運んでくれた人、そして今日キッチンに立った「私自身」への感謝。
忙しい毎日の中で、私たちは食事を「タスク」として消化してしまいがちです。スマホを見ながら、次の予定を考えながら、ただ口に運ぶだけ。
でも、ほんの一瞬、手を合わせて「いただきます」と言うだけで、脳が「今、ここ(Here and Now)」に切り替わります。
マインドフルネス(Mindfulness)という言葉が流行るずっと前から、日本人はこの挨拶で心のスイッチを切り替えてきました。
このスープを飲む時だけは、スマホを置いてください。
最初の一口。
味噌の温かさが喉を通り、胃の中に落ちていく感覚を追いかけてみてください。
日本人は、お腹の下の方(丹田・Tanden)に魂が宿ると考えます。温かいスープがそこに届いた時、不安や焦りがフッと溶けていくのを感じるはずです。
2. 「足るを知る(Chisoku)」という豊かさ
スープを飲み進めると、きっと気づくはずです。
「あれ? お肉も入っていないし、高級な材料も使っていないのに、どうしてこんなに満たされるんだろう?」と。
それは、あなたの身体が**「本物の滋養」を感じ取っているからです。
そして、あなたの心が「足るを知る(Taru wo shiru)」**という境地に触れたからです。
これは京都の龍安寺(Ryoan-ji)という禅寺にある有名なつくばい(手水鉢)に刻まれた言葉、「吾唯足知(Ware Tada Taru wo Shiru)」=「私はただ、満ち足りているということを知っている」から来ています。
人は、「もっと欲しい、まだ足りない」と外側に幸せを求め続けると、永遠に飢餓感に苦しみます。
でも、「今ここにあるもので十分だ」「この一杯のスープで、私は十分に生かされている」と気づいた瞬間、心は驚くほど静かで豊かになります。
冷蔵庫にあった残り物のキノコと、少しの味噌。
それだけで、こんなにも豊かな時間が作れた。
この事実は、あなたの自信になるはずです。
「私は、私を幸せにする力を持っている」と。
海外で暮らしていると、言葉の壁や文化の違いで、自分がちっぽけな存在に思えてしまうことがあるかもしれません。
そんな時こそ、このスープを作ってください。
シンプルで力強い日本の味が、あなた本来の強さを思い出させてくれます。
3. 「ごちそうさま」で、自分を抱きしめる
最後に、食べ終わったらもう一度手を合わせて、この言葉で締めくくりましょう。
「Gochisosama(ごちそうさま)」
漢字で書くと「御馳走様」。
「馳走(Chiso)」とは、「馬に乗って走り回る」という意味です。
昔、客人のために食材を集めるために馬を走らせて奔走した、その労力に対する感謝の言葉です。
今日、あなたは誰のために走りましたか?
家族のために朝早く起き、子供の送迎をし、仕事をし、掃除をし、そしてスーパーで買い物をし……。
あなたは今日も、誰かのためにたくさん「馳走」しましたね。
だから、この「ごちそうさま」は、食事への感謝であると同時に、頑張ったあなた自身へのねぎらいの言葉にしてほしいのです。
「今日も一日、よく頑張ったね、私」
空っぽになったボウルを見ながら、そう自分に声をかけてあげてください。
4. 明日からのあなたへ
たかがスープ、されどスープ。
この「Miso Mushroom Noodle Soup」は、単なるレシピではありません。
それは、忙しい現代社会で自分を見失いそうになった時に戻れる場所(Home)です。
- 引き算する勇気(Introduction)
- 素材を信じる知恵(Development)
- 常識にとらわれない自由(Twist)
- 今あるものに感謝する心(Conclusion)
これらは全て、料理だけでなく、人生を軽やかに生きるためのツールです。
もし、あなたの周りに疲れ果てている友人がいたら、ぜひこのスープを作ってあげてください。
あるいは、このレシピをシェアしてあげてください。
「簡単なスープだけど、魔法みたいに元気になるよ」と言葉を添えて。
温かい輪(Circle of warmth)が、あなたのキッチンから世界中に広がっていくことを願っています。
日本は遠いかもしれません。でも、味噌とキノコとお湯があれば、あなたの食卓はいつでも日本と繋がっています。
そして何より、あなた自身と繋がっています。
最後まで読んでくれてありがとう。
あなたの明日が、温かくて美味しい一日でありますように。
Yuki

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